会長挨拶

日頃より当会活動にご理解・ご協力を賜りありがとうございます。

2020 年 1 月に新型コロナウィルス感染症の出現が報告されて以来、世界はパンデミックに翻弄され、わが国の精神保健医療福祉分野にも大きな影響を及ぼしました。
例えば、高齢者の感染リスクは高いといわれていましたが、残念ながら他の入所施設ではあり得ないほど死亡率が高かったのは精神科病院でした。
皆様方におかれましてもさまざまな場面で葛藤やご苦労があった三年間だったのではないでしょうか。

群馬県精神保健福祉士会は、厳しい社会環境の状況においても、精神障害のある人々の権利を守ること、県⺠の心の健康づくりや精神障害者の福祉の向上を図ることを目指して事業を推進してきました。
そして、昨年度に開催された日本精神保健福祉士協会全国大会に向けた取り組みとして、2020 年から 2023 年まで 2 期 4 ヵ年間 活動骨子及び事業方針計画を掲げて各事業に取り組んで参りました。

以下に、2022 年度の主な活動内容を報告させていただきます。

当会執行部の運営についてはオンラインツールを活用し、定例会や研修事業等に参加しやすい実施体制の充実を図り、役員間、各委員会活動においても、効率的な情報共有、意見交換、意思決定が図れるように取り組みました。
また、県内外の様々な諸団体との交流等、従来の組織の枠にとらわれない活動が着実に浸透していると実感しています。
財政面に関しては、昨年度同様黒字決算とすることができ、会の安定財源の確保を図ることができております。

当会の大きな柱である研修事業に関しては、教育研修委員会基幹研修委員会を中心に研修を企画運営し、会員が専門職としてその資質を向上し、能力の開発を図ることに取り組みました。
災害の分野では、ぐんまDWATの活動に対してのチーム員派遣や、会員へ向けた情報共有ツールの開発に加え、災害に関連した研修を開催する準備等、頻発する自然災害に備える防災、発災時対策の推進のため組織体制を検討しました。
ソーシャルワーカーデイ研修事業では、県内ソーシャルワーカー団体と協力し、研修を開催。ソーシャルワーカーの質の向上、そして県民に向けてソーシャルワーカーの社会的認知の向上や理解の促進に力を注ぎました。
司法ソーシャルワーク領域では、罪を犯した障害者や高齢者に対する社会参加の促進再犯防止につながる生活課題に精力的に取り組みました。
広報関連事業では、情報の発信について、リニューアルされたホームページやSNS、メーリングリスト、広報誌等の定期刊行物を通して会の内外に向けて会の活動を発信しました。 

そして、2022年(令和4年)9月2日~3日の2日間にわたり、「第57回公益社団法人日本精神保健福祉士協会全国大会・第21回日本精神保健福祉士学術集会」、テーマ「七っ転び、八起き~自分らしさを発揮できる社会を目指して~」を開催いたしました。
群馬県で初めて開催することとなった本大会は、コロナ禍の煽りを受け、正に七転び八起きの連続でしたが、会場参加とオンライン参加を合わせ800名をも超える皆様にご参加いただくことができました。
厳しい社会情勢においても前向きに生きるスタンスを持ち続けたいという群馬からのメッセージに即した全国大会・学術集会になったのではないかと思います。
また、本大会開催の準備を進めていく中で、現在の精神保健福祉士の活動は、県内の様々な諸団体の方々による精神保健医療福祉の地域作りの上に成り立っているということを実感させられました。
私たちは、精神保健福祉士としての役割を謙虚に受け止めながら、本大会運営を通して得た大きな学びを未来の活動に活かしていかねばならないと感じました。 

少し地域社会の課題に触れたいと思います。

厚生労働省によると、2022年(令和4年)の自殺者数は21,881人で、前年に比べ874人(4.2%)増。
男女別にみると、男性は13年ぶりの増加、女性は3年連続増加となりました。
年齢階級の中では、50歳代が最も大きく増加し、有職者の自殺率も増加しています。
小中高生の自殺者数は514人で、1980年に統計を開始してから初めて500人を超え、過去最多となりました。
本県の自殺者数は、1998年(平成 10 年)に急増して以来年間 500 人前後で推移し、2010年(平成 22 年)以降は増減を繰り返しながらも減少傾向が続いていますが、自殺死亡率(人口 10 万人当たりの自殺者数)は、全国平均を上回る状況が続いています。
また、少子化が諸外国に類をみないペースで進展し、人口減少、家族機能、地域コミュニティの衰退が加速する中、いじめ、虐待、あらゆる形態の差別、人権侵害、頻発する災害、貧困の拡大と世代間連鎖、社会保障制度の劣化などが日本社会の閉塞的な状況を一層加速させ、様々なメンタルヘルスの問題に直結し、社会的弱者は孤立し、更なる苦境に立たされています。

そして、今年2月に、私たち精神保健福祉士として看過できない事件が再び起こりました。
八王子市内精神科病院の医療従事者による入院患者に対しての暴行事件です。
複数職員による暴行や威嚇をする様子を撮った動画や画像が公開され、私たちは衝撃と言葉にできない憤りを感じました。
2月25日に初回放送された「ルポ 死亡退院 〜精神医療・闇の実態〜」には、「このまま連れて帰ってください。戻れば殴られる。だめなら、ずっと一緒にいてください」と泣きながら訴え、約3週間後に亡くなった患者も映し出される等、同病院の1年に及ぶ調査報道がなされ、院長を含めた職員の低い人権意識や倫理観、高い死亡退院率、違法と思われる入院手続き、身体拘束、機能不全となった行政の監査、生活保護を前提とした入院、地域行政との癒着、家族の病院に対する依存、精神科医療機関の閉鎖性の高さ、低い社会的関心など、複合的な問題を露呈しています。
遡って、2020年3月には神戸市内精神科病院の医療従事者6名による患者への集団虐待暴行事件、静岡県沼津市の精神科病院における事件も記憶に新しいと思います。
精神科病院は、犯罪被害や人権侵害が頻繁に発生しているにもかかわらず、被害に遭っても相談へのハードルが非常に高い現実があります。
従って、報道されている事件や、係争中のケースなどは氷山の一角とされており、精神障害のある人々のまぎれもない現状であり、私たちの実践の場でいつでも起こり得る事実です。
更に、精神疾患に対する世間一般の理解度は未だ低いままであり、多くの人が精神疾患、精神障害者に対してネガティブに捉え、その偏見は、根深いものがあります。

このような中、2024年(令和 6年)4月より精神科病院の管理者に対して虐待防止の対応や、虐待の通報が義務化され、入院患者の権利擁護等を推進することになります。
また、地方自治体による「精神障害者にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を目指す取り組みや、約40年ぶりに高校の授業で「精神疾患」が取り上げられるなど、偏見や差別の解消に向けた取り組みも始まっています。
そして、昨年の9月9日に国連による総括所見改善勧告が公表されました。
日本政府が勧告内容を真摯に検討し、国内における人権施策を一層改善するための取組を促進し、日本の社会全体を変える大きなターニングポイントになればと期待しています。

現在、地域社会には課題が山積していますが、精神保健福祉士は、当初想定された精神科医療や障害者福祉分野をはじめ、学校教育、司法、産業、災害など多様な領域に活動の場が拡大し、メンタルヘルス課題への対応から精神障害者の社会的復権まで幅広い機能の発揮が期待され、役割を与えられるに至っています。

今一度、国家資格化された経緯とその歴史的使命に立ち返りながら、地域共生社会の実現に向けて新しい時代の社会福祉のあり方を模索しつつ、新たな時代のニーズに応えられるようなソーシャルワーク実践に力を尽くしていく所存です。

最後に、私たち一人ひとりの取り組みが県民の心の健康づくりや精神障害者の福祉の向上を図る未来を創ることと信じて、各種事業を一層推進して参りたいと考えます。

本年度も群馬県精神保健福祉士会の活動に皆様の御協力をお願い申し上げます。

2023年4月

群馬県精神保健福祉士会 会長 林 次郎

沿革

1993年群馬県精神医学ソーシャルワーク研究会発足
2001年精神保健福祉士法施行に伴い、群馬県精神保健福祉士会に名称変更
2006年公益社団法人日本精神保健福祉士協会群馬県支部を受託
2022年 9月 2日〜3日第57回 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 全国大会
第21回 日本精神保健福祉士学会 学術集会 群馬大会 開催

2022-23年度 役員

会長林 次郎 <東部地区>
副会長加藤木 啓充 <中部地区>   鎌塚 建司 <中部地区>
事務局長狩野 敦
理事<北部地区>
永尾 奈生実  番場 祐太
<中部地区>
佐藤 晶彦   福永 晋太郎
<東部地区>
片山 和也   小林 拓人   中嶋 淑子
<西部地区>
鈴木 琴子   富澤 洋平   中島 基彰   茂呂 和弥   
監事天笠 純恵   池田 朋広
群馬県支部代議員中嶋 淑子 <東部地区理事を兼務>
顧問横澤 岳志